東京高等裁判所 昭和46年(ネ)335号 判決
ところで、民法第一七七条に定める登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者から除外される背信的悪意者というがためには、たんに登記簿の記載が名義上のものに過ぎず他に真実の権利者の存在することを知り又は知り得べかりしであったというだけでは足りず、登記の欠缺を主張する第三者の行為の態様、右第三者から否認される権利利益の種類内容等諸般の事情からみて登記の欠缺を主張せしめることが、真実の権利者との関係において信義則に反すると認められる具体的事由が存する場合でなければならない。
前記認定の事実によると、控訴人と李間の判決によって認められた権利は李に対する旧建物につき買戻を原因とする所有権移転登記請求権であって必しも所有権自体が確定されたわけではなく、しかも右判決に基づく登記手続を遷延したのは専ら控訴人の責に帰すべき事由によるものということができる。他方被控訴人は旧建物について仮差押の執行をした当時においては全くの善意であったことはもちろん控訴人が李に対する前記判決を得た後においてもこれを知り又は知り得べかりし機会があったとしても、判決後三年間も登記手続をしていないことは異常のことであり、控訴人に関係書類の閲覧を求めたが控訴人はこれに協力しなかったので、控訴人の言葉だけでは到底信用できないと考えたのは無理からぬことであり、他に被控訴人が李に登記のあることを奇貨として同人と謀って自己の債権の満足を図るなど悪質者とみるべき特段の事情は全く存在しないのであるから、被控訴人は控訴人の主張するごとき背信的悪意者にはあたらないものと解するのが相当である。<中略>
五、さらに、控訴人は、被控訴人は控訴人の李に対する判決確定後に李から本件物件の所有権を取得したのであるから、民事訴訟法第二〇一条第一項にいう口頭弁論終結後の承継人に該当する旨主張するので判断する。
確定判決は、その主文に包含されるものにつき既判力を生ずるものである。控訴人の李に対する確定判決の内容は前に判示したとおりであるから、右確定判決の既判力の及ぶ客観的範囲は控訴人の李に対する旧建物の買戻による所有権取得を原因とする所有権移転登記請求権であるということができる。被控訴人が旧建物につき競落により所有権を取得したのは右確定判決の後であることは明らかであるけれども、被控訴人が民事訴訟法第二〇一条第一項にいう承継人であるとするには被控訴人が李から前示判決による李の登記義務を承継した場合でなければならない。控訴人がその主張する李との間の旧建物に対する買戻の特約につき登記その他第三者に対抗しうる要件を具備していなかったことは本件口頭弁論の全趣旨により明らかであるから、控訴人は被控訴人に対し右特約を主張し得ないことはもとより、競落によって所有権を取得した被控訴人は李の控訴人に対する前記所有権移転登記義務を当然に承継するものではない。したがって、被控訴人は前記法条にいう承継人に該当せず、李に対する判決の承継執行の余地は全くない。
さらに、本件においては控訴人がその主張の所有権を取得したとするのは被控訴人の仮差押の登記の後であり、右仮差押が本執行に移行した後競落によって本件建物の所有権を取得しその登記を経た被控訴人に対しては、控訴人はその所有権取得をもって対抗しえない筋合であり、控訴人の李に対する前記訴訟の口頭弁論終結はおそくも昭和三八年中であることはその事件の年度からして自明であって、右仮差押の登記の後であり、これらの点からしても被控訴人が判決確定後の承継人として控訴人と李との間の前記判決の効力を受けるべき旨の控訴人の主張は失当である。
(浅沼 杉山孝 園部逸)